恋を推すひと



県を跨ぐ距離とは、思いの外遠い。週末の夕暮れ時、はその様なことを考えながら駅の路線図を見上げていた。

妓夫太郎と梅が現在暮らしている家は、碓氷がこちらに所有しているマンションとは別にある。二人の通うM中学と同じくここからは遠く、最寄り駅は二回の乗り換えを経て遥か遠い曲線の上だ。移動距離の長さからして片道だけでちょっとした小旅行の様であるが、会えるのならどんなに遠かろうとも構わない。今はお互いに居場所がわかり、好きな時に電話で声を聴き、週末が来れば直接会うことも出来る。
確証ひとつ無かった文化祭までを思えば、何もかもが好転した今は正直眩し過ぎる程に明るい。足元がふわふわと落ち着かない心地は暫く慣れはしないだろうが、間違いなく幸せだ。巨大な路線図上、ふたつの駅を結ぶ直線を頭の中で描きが頬を綻ばせた、そんな時のことだった。

背後からつんつんと遠慮がちに肩を突かれ、は目を丸くする。
桃色の髪が柔らかく揺れる。見つめ合えば自然と頬が緩んでしまいそうになる明るい笑顔が、そこにあった。

「っ甘露寺先輩・・・!」
「ふふふっ!お休みの日に会えるなんて嬉しいわ、ちゃん!」

甘露寺蜜璃。ひと学年上の先輩である彼女との邂逅は、に大きな喜びを齎した。
何しろ蜜璃は多才故、と違ったベクトルで非常に忙しい。部活動の掛け持ち、委員会にも引っ張りだこ、しかしどれも全力を上げる為に彼女は学園中の人気者だ。文化祭から早一か月が経とうという今日に至るまで、は蜜璃と直接話す機会が持てずにいた。彼女を丸一日リポーターとして独占出来たあの日は、夢だったのではないかと思う程に。

「遅くなっちゃったけど、文化祭お疲れ様。素敵な密着取材をさせてくれてありがとう!」
「お礼を言うのは私の方です・・・!本当にありがとうございました!」
「あの日はとっても楽しかったわ!思い出すとドキドキしちゃうくらい!」

夢ではないのだ。を取り巻く状況は、あの夜を経て大きく変わった。そしては、恩人とも呼べる蜜璃に対して未だそれを報告できずにいる。休日の駅構内は落ち着いた雰囲気とは言い難いが、多忙な彼女を掴まえられた今はまたとない好機だ。

「あっ・・・あの、甘露寺先輩、実は私、先輩にお話したいことが・・・」
「あれ。書道の子じゃん」

横から無遠慮にかけられた声に、決意は遮られた。
と蜜璃の目が同時に声の主を捉える。知り合いではない男二人は明らかに年上で、物珍しそうにを眺めていた。

「えー、本物?すっげー」
「実物も可愛いじゃん、へぇー」

は小学生の頃より大会で顔と名前を出し続けた、ちょっとした有名人である。マイナーな競技ではあれど実績を積み上げる毎に知名度は上がっていき、今となっては学外にもファンが存在しているほどだ。
そうした状況や経験を踏まえてこそ、わかることがある。純粋に応援の気持ちで声をかけてくれる相手と、そうでない相手の違い。明らかに後者である男二人は無遠慮に距離を詰めて来る。反射的に身を固くしたの前に、蜜璃が身を割り込ませた。

「・・・あの、あまり近付いたら、ダメです」

蜜璃の声が硬い。普段あんなにも朗らかな笑みに満ち溢れた彼女が、警戒心を露わに後輩を守ろうとしている。が息を飲むのと、男たちが口の端を歪めて笑うタイミングが重なった。

「なんで?有名人でしょ。良いじゃん少しくらい」
「ってか君も可愛いね、二人共遊ぼうよ」

相手が近付いた分と同じだけ、蜜璃はを背後へ庇いながら後退る。遂には両手を広げて盾となった蜜璃に対し、は焦りと動揺を胸にその背へ飛び付いた。

「だっ、ダメです。絶対、ダメ!」
「先輩・・・!」
「この子には、近付いたらダメ、しつこいと人を呼びます!」
「へぇー、誰を呼ぶのかなぁ」

多少の威嚇ではまるで通らない上、駅の雑踏は仄暗い不穏さ程度では容易く覆い隠してしまう。
の頭の中で危険信号と最も頼れる存在の姿が同時に浮かんだ、次の瞬間だった。

果たして、目と耳の錯覚と呼べるだろうか。形用し難い音を立てて、すぐ傍にあった壁が奇妙に歪んだ気がする。猛烈な勢いで壁に拳を打ち付けた妓夫太郎が、四人の中間に立ち塞がっていた。

「っ・・・!!」

最早声にもならない悲鳴は蜜璃のものか、それとも男たちのものか。煮え滾る苛立ちは、明確な殺意となり対象へ容赦無く突き刺さった。

「駄目だっつってんだろうが、おい・・・」
「あ、あの・・・」
「耳がふたつも付いてる意味、無ぇんじゃねぇかぁ?なぁ・・・?」

強い憤りで小刻みに震える声から。理屈とは違った括りで壁からミシミシと響く音から。このまま居直ることの悪手さを察知できない男たちではなかった。

「っちょ、おい・・・!」
「な、何でも無いわ、全然、興味ねぇから・・・!」

男たちは一目散に逃げ出した。流石の物騒な気配に瞬間騒めいた空気も、すぐに何事も無い休日の駅へと戻っていく。
突然のことに目を剥いた蜜璃の目の前で、黒く立ち上った怒気が薄れ。が駆け寄ることで、その雰囲気は見事に鎮静化した。

「・・・何も、されてねぇか」
「うん・・・ありがとう。甘露寺先輩が守って下さったから」

の無事を確認する妓夫太郎は、男たちを追い払った恐ろしい背中とは同一人物に思えないほど優しい。訳がわからずドキマギとする蜜璃を気怠げな青い瞳が捉え、不意におやと空気を変えた。

「・・・配信の」
「そう!甘露寺蜜璃先輩。私がとってもお世話になってる人!」

が嬉しそうに声を上げた。ごく近い距離感で自然と寄り添う二人を前に、蜜璃の目が満月の様に丸くなる。

「甘露寺先輩、紹介します・・・謝花、妓夫太郎くん、です」

若干つかえそうになりながら彼のフルネームを明かしたの表情は、堪らなく穏やかで。

「文化祭の日、配信を見て会いに来てくれた・・・私の、探してたひと、です」

その声が、その言葉が、の幸福を物語る。
それを理解した瞬間、蜜璃の視界は唐突に歪んだ。

「・・・え?甘露寺先輩?」
「ふっ・・・う、うわああああん!!!!!良かった、良かったわあああああ!!!!」

力の限り。
まさしくそんな表現の相応しい泣き声が駅に木霊した。




* * *



「ごめんなさい。もう本当に、私先輩なのに大声で泣いたりして恥ずかしいわ・・・」

温かい缶飲料は、少しでも落ち着いて貰える様にというのせめてもの気持ちだったが、手にしたそれすら恥じ入る様に蜜璃はどんどん小さくなっていく。
目立つであろうチャージ券売機の前から移動し、駅の片隅にての手が蜜璃の背を摩った。

「甘露寺先輩、お顔を上げてください。助けていただいたのは私ですから。本当にありがとうございました」
「・・・俺が、もっと早く気付けてりゃあ防げたことだしなぁ」
「二人とも・・・優しいフォローをありがとう」

すっかり赤くなった鼻を啜り、蜜璃がぐっと目を瞑った末に強く瞬く。気合の入った表情は、と半歩後ろに控える妓夫太郎の姿を改めて認めるなりふにゃりと緩んだ。

ちゃんが、あの後本当に念願の彼と再会出来たことと・・・あまりに、二人がお似合い過ぎて、なんだか急に胸がいっぱいになっちゃったの」

涙を拭って微笑む表情があまりに柔らかく、と妓夫太郎は思わず言葉を失ってしまうが、蜜璃にしてみれば嘘偽りの無い気持ちだった。
会いたいひとがいる。何とか思いを伝えたいひとがいる。そのひたむきな思いに心を打たれ文化祭の配信を組み立てたことは本当に良き思い出だ。
の願いが叶ったこと、その形があまりに多幸感溢れるものだったこと、嬉し過ぎる報告が一度に齎され、気持ちが追い付かない。

「素敵なんて言葉じゃとても足りないわ。運命の恋人って、映画やおとぎ話の中だけじゃないのね。ほんのちょっとの時間でも、よくわかった気がするの」

桃色に煌めく背景を背負いうっとりとする蜜璃を前にして、時を置くごとに気恥ずかしさが増していく感覚には目を泳がせる。そっと斜め後ろを覗き見れば、最大限困っているであろう眉間に皺を寄せた表情がすぐ傍にあり、余計に頬が熱い。
運命の恋人。正面から二人並んでその単語を笑って受け流せるほど、は妓夫太郎が傍にいる奇跡の様な日常に慣れていなかった。

「あっ・・・あのね、甘露寺先輩はインタビューの内容とか、一般の人向けだけど、妓夫太郎くんにはわかる様な仕掛けとか、沢山一緒に考えて下さったの。あの日がうまく行ったのは色んな人に助けて貰ったからなんだけど、甘露寺先輩の協力は特に大きくて・・・」
「えぇ?!そんな大袈裟よちゃん・・・!」

咄嗟にが差し込んだ紹介に、蜜璃が慌てて両手を振る。妓夫太郎にしてみれば文化祭配信のレポーターでしかない蜜璃は、実のところ大変恩のある人物であるということを伝えたかったのだ。
しかし、そこで妓夫太郎が怪訝な顔をする。言おうか言うまいか言い淀んだ末、あまり大きくはない声がに向けられた。

「・・・事情は、知ってんのかぁ?」
「あっ・・・それ、は・・・」

の言葉が途切れた。
あの密着取材は確かに強い呼びかけであったが、そこまでの協力を求めたのであれば蜜璃が諸々の事情を理解していることが大前提となるのではないか。尤もな指摘である筈が、返す言葉が見つからない。一言では説明のつかない複雑な背景を、は蜜璃に明かせていなかった。何も知らないひとつ年上の彼女は、それでもへ協力を約束してくれたのだ。
どこから話すべきか、どこまでを話すべきか。狛治と恋雪を前に糸が切れた様に咽び泣いたあの日とは状況が違うけれど、多大なる力を貸してくれた蜜璃に対し同じ様に説明をする義務がある筈だ。現実離れした話を、どう切り出すのが正解か。そうして懸命に言葉を探すの両手を、柔らかな白い手が包み込む。

「い、良いのっ!」

それは、両者の困った表情を読み取ってのことか。蜜璃は焦った顔をしながらも、はっきりと声を上げる。両手を熱く握られ、は瞠目した。

「色んな事情はあると思うけど、特別なこと、私は知らなくて良いの!」
「・・・先輩」
「本当に、良いの!もう、私は今のままで十分お腹いっぱいなの!ほら!なんたって運命の恋だもの!ちょっとくらいミステリアスでも良いじゃない!素敵だわ!」

彼女は真摯で、何より優しい。ぶんぶんとの両手ごと振りながらの力説は、蜜璃の熱さと真っ直ぐさを痛いほどに届けてくれた。
眉を寄せて真剣な顔で詰め寄ってきたかと思えば、不意に自分から縮めた距離の近さに照れた様に微笑む。彼女独特の甘い香りと手の温かさが、の胸の内を強く揺さぶった。

「心配してた“記憶”は、ちゃんとあるのよね?ちゃんが望んでた通り、会えただけじゃなく“元通り”なのよね?」
「・・・はい」
「だったら素晴らしいことだわ!ちゃんと妓夫太郎君が一番良い形で今一緒にいられてることがわかったから、私はそれだけで十分なの!」

明るい笑顔に、救われる。
前向きで力強い言葉に、救われる。

ちゃんの恋が実を結んで、本当に良かった。こうして直接彼を紹介して貰えて、最高に嬉しいわ」
「甘露寺先輩・・・」

誰にも明かせなかった強欲さを迷わず肯定してくれたひと。こんなにも素晴らしいひとが、あの日に縁を繋ぐ心強い味方をしてくれたのだ。あまりに恵まれ過ぎている、その現実にが思わず胸を詰まらせた、そんな時だった。

「・・・やべぇかもなぁ」

滅入った声色と共に、妓夫太郎が複雑に顔を顰める。その視線を追いかけたの瞳が、驚きと焦りによって跳ねた。

「えっ?・・・あっ、梅ちゃん!お兄ちゃん!」

非常に険しい形相で髪を逆立てこちらへ近づいて来る梅、そしてその後を必死に追う兄の姿。しまったと息を呑んだ時には遅かった。元々四人で定期券を購入するにあたり、専用窓口が狭いことを理由に一番乗りだったが一足先にその場を離れたことが発端だ。思わぬ邂逅、思わぬ災難、そして思わぬ涙に焦るあまりすっかり頭から抜け落ちてしまった大切な存在が怒りを露にしている。これはどう考えてもまずい。

「遅いと思ったら何よ!誰よこの、」
「待って下さい梅殿!このひとは・・・」
「かっ・・・可愛い・・・!!!!」

絶体絶命と思われた激しい火の手は、しかしその中心人物によって見事鎮火される。
蜜璃は目の前に存在する梅の愛らしさが信じ難い様に何度も目を瞬き、擦り、そして感動の歓声を上げた。

「こんなに可愛い子初めて見たわ・・・!!お人形さん?!モデルさん?!それとも妖精さん?!ちゃんと幸太郎くんのお友達?!わ、私に話しかけてくれてるの?!」
「・・・目は悪くないみたいね」




* * *



美貌をもてはやされることには慣れ切っている筈の梅に対し、単純に褒めちぎる正攻法で警戒心を解かせるとはなかなかの強者だ。
妓夫太郎は蜜璃に対しそんな感想を覚えたものだが、同時にが彼女を慕う理由も大まかに理解できた時間となった。
蜜璃は他人の幸福を自分のことの様に喜べる。妬み羨むことと対極の眩しさは目に優しくはなかったが、心の底から二人の再会を喜ぶ彼女を悪く思える筈が無かった。

すっかり気分を良くした梅に付き従い、蜜璃が幸太郎と共に喜々として駅前のコーヒーショップに並んでいる。テイクアウト目的で狭い店内に五人並ぶのは流石に、と理由付けと妓夫太郎に外で待つ様言い出したのは幸太郎であったが、顔を赤らめ力の限り賛同した蜜璃の熱量は確かに凄まじく、妓夫太郎も完全に気圧されたものだ。ウィンドウ越しにと目が合ったのだろう、手を振って来る彼女は背景に花が飛ぶ様に華やかで、梅も早くも懐き始めている様に思えた。

通りを挟んで逆側の壁沿いに二人で並び、三人が戻るのを待つ。とても穏やかな時間だ。

「良いひとなんだよ、本当に。尊敬してる、とっても素敵な先輩」
「・・・みてぇだなぁ」

しみじみとした声に同意を返す。隣同士で重なり合うコートの裾に隠れ、ひっそりと指先が触れ合った。


「なぁに?」

名前ひとつ。それだけの呼びかけに、酷く嬉しそうに応じ見上げてくる黒い瞳。途方も無く綺麗なそれには紛れもなく自分ひとりしか映っていない現実に、堪らない気持ちを覚えてしまう。妓夫太郎は困った様に眉を下げながら頬を小さく緩め、触れ合った指先をしっかりと絡ませた。

「梅の編入と、俺の受験。さっきはああ言ったが、真剣に考えるからなぁ」

瞬間目を丸くしたの笑顔が、見る見る内に満開へと昇華していく。この上無く好きな光景に、妓夫太郎は苦笑ばかり浮かべてしまう。

「本当?一緒の学校、来てくれるの?」
「二人とも受かればの話だけどなぁ。あと、別に反対した訳じゃねぇからなぁ」

春から四人同じ学校に通いたいと、昼間に梅が言い出した。突然の希望は当然誰にとっても嬉しい話の筈だったが、妓夫太郎が待ったをかけたのだ。
梅にとって圧倒的に学力圏外のキメツ学園一本に絞ることは危険だと。近くにはもっと安全圏の中高一貫校もいくつかあるのだから、出願先は冷静に考えるべきだと。

「気持ちはあっても、頭の方がなぁ・・・失敗して泣かせちまう可能性の方が、今のところは圧倒的に高ぇって話だ」
「あのね、さっきは妓夫太郎くんが前向きじゃないと思ったから何も言わなかったけど、私はまだ間に合うと思う。お兄ちゃんも多分、同じこと考えてたんじゃないかな」
「・・・そんな顔してたなぁ」

当然自分も梅に合わせた同じ高校を受験すると兄である妓夫太郎が言い切る以上、思慮深い双子の兄妹は口出しをして来なかった。しかしからもそうであったが、特に幸太郎から切実に滲み出た異論の気配に気付けない妓夫太郎ではない。梅の地頭を知っているだけに心配は心配のままであるが、兄としてひとつの覚悟を決める。問題は、と幸太郎を巻き込んでしまうことだ。

「ただ、俺はどうも教えるのが下手なんだよなぁ・・・。本気で勉強させるならよぉ、お前たちにも」
「任せて!」

迷惑をかけることになる、という言葉は即答に遮られた。期待と使命感に輝く瞳が、明確に近くなる。繋がれた片手はそのままに身体ごと飛び付いてきたを、妓夫太郎は空いた方の腕で咄嗟に抱き留めた。
は笑っていた。ただただ、嬉しさに綻んだその笑顔で、即答の応をくれる。

「春から妓夫太郎くんと梅ちゃんがうちの学園に来てくれるなんて、夢みたいに嬉しい!私も全力でお手伝いしたい!」
「・・・悪ぃなぁ」
「全然!それに忘れちゃった?お兄ちゃんは最高の先生だよ。教えることは本当に上手、私が保証する!」
「・・・そうだったなぁ」

この心強さに何度助けられただろう。空白の期間より更に昔を思い、何ひとつ変わらない頼もしさに妓夫太郎は温かな気持ちを覚えてしまう。

蜜璃はふたりを、運命の恋人と呼んだ。信じ難く気恥ずかしい単語ではあったけれど、ならばその運命とやらに感謝しなくてはならないだろう。こんなにも、幸福を日々の中で噛み締めることが出来るだなんて。ほんの一月前までは、考えもしなかった。

「あの、すごく嬉しいけど・・・どうして考え直してくれたの?」

が問うと同時に、先程の嫌な光景が蘇った。今は飢えや死と隣り合わせの時代とは違う。人喰い鬼もいなければ、刀を握る者もいない。しかしながら、大切なものを守らなくてはならない場面は確かに存在するのだ。

あらゆることから守らなくては。
今度こそ、一番近くで。

「・・・近くにいないせいで間に合わねぇのは、もう無しにしてぇからなぁ」

囁く様な本音に、の瞳が一瞬の間を置いて多幸感に優しく細められる。

寄り添う二人がショーウィンドウ越しの熱視線で我に返るまで、残り数秒を切った。


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