その青い光無しには




周囲に誰もおらず二人きりであること。
出来れば、室内であること。

人前では気恥ずかしい触れ合いに際し、彼が善しとする条件を抜け無く整え、甘える様に背後から腰へと抱き着くと、その細い背は幾分かの空白の末深く溜息を吐き出した。

直接確認せずとも、その表情が手に取る様にわかる。
眉間に皺を寄せて宙を睨む、参った様な目をしながら口端が優しく緩んだそれは、甘えへの赦しであることを知っている。

こちらが正面に回り込むのが先か、彼が振り向くのが先か、よーいどんで同時に動けば時間は半分に短縮された。
どうしたって滲み出てしまう期待は、優しい瞳と頭に置かれた掌が受け止めてくれる。
髪から頬へと滑り落ちる様に撫でられる心地良さに瞼を下ろしながら、顔を上向かせて至福のその時を待つ。

好きと言葉に出し始めたら止まらない。
遠慮がちに腰を引き寄せる細くとも逞しい腕。
心が浮き立つ様でいて同時にほっとする彼の匂い。
触れ合う間際、一瞬躊躇に強張る気配。
彼を構成する何もかもが好きで、好きで、堪らなく好きで。
最後の最後は、待ちきれずに背伸びをしてしまう。

不意を突かれたくぐもった声が鼻に抜ける、それすら耳に甘く溶けて愛おしい。
首元に両腕で抱き着くことも、思わず唇を重ねながら笑ってしまうほどだらしの無い頬の緩みも。全て許容されることが幸せで嬉しくて、身体がふわりと軽くなった心地がした。

世界で一番優しく頼もしい腕に抱かれて、だいすきを何度も囁きながら夢中で柔らかな触れ合いを繰り返す。
ぴたりと抱き合った身体も、そっと喰み合う唇も。互いの境界線をもどかしく思う程に、温かく尊く染み渡っていく。

息継ぎの合間、不意に薄く開けた瞳同士がぴたりと至近距離で合わさり、ふたりの間に僅かな隙間を生んだ。
視線に好意を載せれば載せるほど、愛を言葉にすればするほど。困った様に眉を下げながら緩く微笑んでくれる瞳の青が、優しく深まっていく。


こんなにも魅惑的な色は、他の何処を探しても見つかる筈が無い。

途方も無い思いが溢れ出て、思わず飛び付く様に再度隙間を塞いだ。

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