Sweetie Garnet




目は口程に物を言う。
まさにその実例を画面越しに眺め、込み上げるのは可笑しさと愛おしさが半々と言ったところだろうか。

「シャディク、今大丈夫?」

の瞳は動揺と興奮に丸く見開かれ、普段の落ち着きが無い。否、最近はこうして平静さを無くすことが多いと言えるだろう。何かと戸惑いがちになった姉の姿は頼りなくも望んだ通りのものであり、シャディクは余裕ある笑みで前のめりな問いを受け止める。

さて、手配していた物は無事にの手元に届いた様だ。本題に入らずとも、慌てた通信の理由は既に分かり切っている。

「勿論大丈夫だけど。その顔は、無事に贈り物が届いたかな」
「今ね。その、事前に何も聞いていなかったから、本当に驚いたわ・・・」
「はは。前もって教えたらサプライズにならないからね」

細長いベルベットの箱を両手で大切に掲げ、が頬を綻ばせる。驚きは勿論だが、喜びが画面越しに伝わる様な笑みが花開き、シャディクの胸の内が温かくなった。
の嬉しそうな笑顔はどんな返礼にも勝り、この表情を見る為ならば何だってしようと思える。シャディクの中で何年も前から変わることの無い価値観だった。

「ありがとう、シャディク。あの、早速着けてみて良いかしら」
「一番に見せて貰えるだなんて光栄だな、嬉しいよ」
「シャディクがくれたんだもの。最初に報告するのは当然だわ」

細い手が慎重に箱を開き、うっとりとした溜息と共に贈り物が本来の目的地へと到達した。細い金のチェーンに繋がれたガーネットがの胸元に光る。想像した通りの光景に、シャディクは柔らかく目を細めて微笑んだ。

「似合ってるよ。とても綺麗だ」
「・・・ありがとう。本当に、綺麗ね」

何を綺麗と称しているか。小さな空白はシャディクの真意に気付いている様な素振りを見せつつも、結論としてすれ違った。石の美しさを称えるの言葉には特別異を唱えることもなく、シャディクが小さく肩を竦めて見せる。

「本当は直接渡したかったんだけど、納期の調整が難しくてね。早く姉さんに届けたかったから、加工元から直接送ってしまったんだ」
「そうだったのね。とても嬉しいけど、そんなに急いで何の贈り物なの?お誕生日でも、クリスマスでもないわ」

言葉の通り彼女の誕生日からは遠く、何らかのイベントとも合わない。贈り物の理由がわからず疑問符を浮かべるを見遣り、シャディクは小首を傾げる。画面の向こう側の彼女に負けず劣らず不思議そうな顔は、確かな計算で造られた表情だった。

「何か理由が無いと、大切な女性に贈り物をしてはいけないかい?」
「そ、そうじゃない・・・けど」

贈り物に特別な理由はいらない。確立された考え故に言葉はまるでぶれず、加えてさらりと口にした情熱的な単語によっての頬にさっと赤みがさした。

縁談の是非を問われた日より、こうしてシャディクがの内側に踏み込むことが増えた。姉弟として適切な距離感か否か、まともに考えればとうに一線を越えた遣り方で翻弄すれば、面白い程には狼狽える。拒絶をされないラインは当然心得ており、時に浅く時に際どい部分まで切り込むやり取りは実に豊かにシャディクの胸中を彩った。
家族以上の情に戸惑わせ、しかし警戒ではなく意識をさせている現状。その胸元には、自らの選んだ石が揺れている。これを喜びと呼ばずに何と表現すれば良いと言うのか。計算し尽くされた微笑みの下にぎらついた炎を絶やさないシャディクを前に、の表情が緩んだ。動揺も戸惑いもあれど、今一番伝えるべきは何かということを彼女は心得ている。

「ありがとう、シャディク。貴方だと思って大切にするわ」
「おや、思わぬところにライバルを作ってしまったかな」
「ふふ、何を言ってるの」
「本気だよ。何と言っても、俺はまだまだ未熟者だからね。姉さんからの寵愛でその石に負けないように、もっと精進しないと」

当然、本気ではなかった。緻密に考え抜かれた台詞は、を揺さぶる為だけの見せかけの言葉だ。
その時だった。画面の向こう側のが、不意に小さく唇を噛む様に視線を逸らす。

「・・・貴方は、今のままで十分素敵よ」

細やかな声だった。しかし、静まり返った空間はその声をはっきりと届けてくれる。真っ直ぐ過ぎる言葉にシャディクが内心の喜びを調整するより早く、がはっと我に返り表情を硬くする一連の流れが画面に映った。彼女の動揺を示すかの様に、胸元のガーネットが揺れる。

「あっ・・・あの、嬉しい贈り物を本当にありがとう。そろそろ切るわね」
「喜んで貰えて良かった。身体、温かくするんだよ」
「ありがとう。シャディクも、無理をしない様にね」

頬を染めながらも普段通りの優しい言葉を残し、との通信は途絶えた。暗転した端末を胸に、シャディクは自室のベッドへと仰向けに横になる。

は今宵、シャディクのことを素敵だと言った。素敵な弟、とは呼ばなかった。些細なことであるし、これが変化と呼べる程今後安定するかもわからない。しかし、目を逸らしながら告げられたか細い声が耳に残って仕方がない。

「・・・可愛いひとだなぁ」

シャディクは思わずそう呟いた。
直接手渡し華奢な首元に自らチェーンをかけたい欲もあったが、敢えて送った意味は確かにあった。会えない時間こそ有効に使う。今この瞬間も、恐らく赤い顔をして胸元の石を眺めているであろうの姿を思い浮かべるだけで頬が緩んだ。

は可愛い。堪らなく可愛い薔薇の様なひとだ。いっそのこと、摘み取って凍らせてしまいたい程に。
自らの内側に燻る歪んだ熱に、シャディクは乾いた笑みを溢した。



 Top